2017.10理事長コラム『鍼灸に受領委任が取り入れられたら・・・・そのメリットとデメリットは何?』

早ければ来年にもあはき療養費に柔整と同様の受領委任の取扱いが導入されることになっています。受領委任払いの導入は業界の念願であることから皆さん大喜びでしょう。ここで、鍼灸にも受領委任の取扱いが認められることのメリットとデメリットを検証して参りましょう。

〇メリットとしては、
①保険請求の収入が事前に把握でき、保険の入金が確実に確保できることから治療院の安定的経営に繋がる。
②資金繰りに役立つこと。
③ルール化された統一的な保険請求が可能になる。

×デメリットとしましては、
①国の指導監査の対象になる。
②5年間の保険取扱いの中止処分などの措置が取られる可能性がある。

参考になるデータといたしましては、健康保険組合連合会(以下、健保連)がこのほど実施した「療養費に関するアンケート調査結果」を見ればよくわかります。これによれば、現状では償還払いがなお一層増加しており、全組合の48%が償還払いを実施していく方針であることが分かります。
あはきの受領委任払いが来年導入されたとしましても、健保組合の考えは償還払いへの移行を推進することでありますから何も変わりません。

一方、国保や後期高齢者医療広域連合は受領委任払いの導入に積極的であり、これを早期に実施したい立場から、健保組合と認識が異なります。受領委任払いを推進する立場にいるこれらの保険者の言い分は、保険者側のメリットとして「国の指導調査権限の導入が行われることによる適正化対策の強化が期待できる」というものですが、今回の健保連のアンケート調査では、この点について、「柔整療養費の状況から指導監督機能に実効性があるとはいえない」ことを理由に否定の見解を示されています。

健保連の実績として、傘下の健保組合が代理受領から償還払いへ移行したなら「請求が無くなった」との声が聞かれ、医療費財源に苦しむ健保組合にとってはまさに「伝家の宝刀」なのです。被保険者サービスに逆行しようがお構いなしで、療養費の請求が無くなるのであればこんなに有難いことはないと「償還払いへの変更」は後を絶たないのでした。たしかに人材派遣健保組合のように、償還払いから代理受領へとまったく逆の取組みをした保険者も一部にはあります。
けれどもこれは、受領委任払いが柔整のように100%導入された場合の健保組合内の事務的混乱を予め回避するための健保組合側の都合による「前倒し」方策に過ぎません。
あはきの受領委任払いの制度設計にあたりまして、「保険者の自由裁量権」から、受領委任の取扱いを100%強制できずに、①受領委任の取扱いと②代理受領と③償還払いの3つが混在するような体たらくを許してしまってはダメです。
あはき療養費の受領委任払い導入が決まったことを受けて、健保組合のうちの641組合(48.1%)が償還払いに移行する意思表示を示したことは、受領委任の導入が決まったにもかかわらず、「逆に」現状の組合数を上回る数の健保組合が償還払いを実施するというあはき業界の思いとは裏腹に「ねじれ現象」に陥ってしまうのです。

もう一点着目しなければならないのは、柔道整復療養費に与える影響でしょう。このアンケートでも明らかになっているのですが、柔整も償還払いにしたいと希望する健保組合が何と530組合にも達しています。そうすると、約4割の健保組合は柔整の受領委任払いからの撤退を希望しているのが分かります。
あはき療養費が100%の保険者参加の受領委任の取扱いにならず、保険者の自由裁量で「導入するもしないも保険者の勝手」と仕切られてしまっては、当然のことながらこれは柔整療養費にも飛び火することになるでしょう。あはきの受領委任払いが柔整の療養費取扱いの抑制に直結するという構図になります。
健保組合側はこれからも「不正請求防止に最も有効な“不正対策”は、そもそも保険請求がなくなる取組み、すなわち「償還払いへの移行」だと声高に主張し続けます。そこには患者保護の見地やあはき施術を受け易くするなどの患者目線での配慮は全くないのが残念でなりません。

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